ヨルシカ『風を食む』徹底考察―テーマは消費社会と「貴方」への想い

ブログのアイキャッチ用に作成した画像 ヨルシカ
ブログのアイキャッチ用に自作した画像。ヨルシカ『風を食む』ジャケットイラスト、https://www.universal-music.co.jp/yorushika/products/up1as-01371/の画像を使用、2020/10/16

 

 

今や日本だけでなく世界的にも有名になりつつある日本のアーティスト「ヨルシカ」が、10月7日に新曲『風を食む』をリリースしました。

今回紹介していく新曲『風を食む』は、TBS系「NEWS23」のエンディングテーマとして書き下ろされました。

アコースティックギター優しいイントロダクションから始まり、全体的に穏やかで優しくそよ風に包まれるような楽曲になっています。

この記事では、そんなヨルシカの新曲『風を食む』にはどんな意味が込められているのか、作詞担当のn-bunaさんのコメントも引用しながら徹底的に解説していきたいと思います。

この記事で分かる考察の結論

✔「風を食む」のニュアンスは「思わず口を開けて小さく歌う」

✔テーマは「消費社会」…だけじゃない。

✔隠された真のテーマは「今は亡き妻への想い」

✔この世のすべての「あなた」を優しく包む

”風を食む”のテーマは「消費社会」だけじゃありません。
この記事を読めば、”風を食む”に対するイメージが大きく変わります。

『風を食む』―タイトルの意味は?

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ヨルシカ『風を食む』ジャケットイラスト、https://www.universal-music.co.jp/yorushika/products/up1as-01371/より転載、2020/10/16

まず、言葉の意味からタイトルの意味を考察してみたいと思います。

タイトルの読み方は「かぜをはむ」と読みます。

「食む」と書いて「はむ」と読むのはあまり馴染みがありませんよね。

以下は以前私が書いた記事※にも書いた内容ですが、

「食む」と書いて「はむ」と読むのは、国語辞典にも載っている正式な読み方です。

※以前書いた記事はこちら『ヨルシカ新曲【風を食む】発表!読み方は?意味は?いつから聞ける?

 は・む【▽食む】

[動マ五(四)]

1 食物をかんで食う。また、飲み込む。「草を―・む牛の群れ」

2 そこなう。害する。「吾心を―・み尽し」〈紅葉・金色夜叉〉

3 俸給などを受ける。「高禄を―・む」

デジタル大辞泉、「食む(はむ) の意味」、(2020年9月取得、https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%A3%9F%E3%82%80/

では、「風を食む」にはどんな意味があるのでしょうか。

「風を食む」という言葉自体はn-bunaさんの造語だと思われますが、慣用句に「風を食らう」という表現があります。

 風(かぜ)を食ら・う の解説

事態を察知する。感づいて、あわてて逃げる。「―・って逃げる」

デジタル大辞泉、「風を食らう(かぜをくらう) の意味 の意味」、(2020年9月取得、https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%A2%A8%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%82%89%E3%81%86/

未来に起こる何かしらの事象を前もって察知する、といった意味合いがあるみたいです。

この「風を食らう」から由来しているものだとすれば、

ニュースのエンディングテーマらしいタイトルだなという印象を受けます。

ここでは文字通り言葉の意味から「風を食む」の意味を考察しましたが、

後に歌詞からこの「風を食む」の持つ意味を解説していきます。

歌詞全体の中での「風を食む」の意味を考察した場合、ニュアンスとしては

「思わず口を開けて小さく歌を口遊む」

の意味が近いように感じます。

”風を食む”という表現そのものが作詞者n-bunaさんらしくて本当に素敵ですね。

 

テーマは「消費社会」

ヨルシカの楽曲には、それぞれ何かしらのテーマや物語など、歌詞の中に特別な意味が込められていることが多いです。

今回の新曲「風を食む」にも、とあるテーマがあります。

それは、現代の象徴ともいえる「消費社会」

これについては実際、ヨルシカのコンポーザーであるn-bunaさんが以下のようにコメントしています。

n-bunaさん自身のコメントにもある通り、この曲のテーマは「消費」を表しています。

n-buna コメント
全体のテーマは消費です。子どもの頃は雲ひとつにも心を動かされたのに、大人になるにつれ、そういう感覚は少なくなったように感じます。タップひとつで物が買える現代社会で、消費することに疲れてしまった心を、最後に優しく包むような曲を書きたいと思いました。

CINRA.NET、2020、「ヨルシカの新曲“風を食む”がTBS『NEWS23』新エンディングテーマに決定」、(2020年10月取得、https://www.cinra.net/news/20200923-yorushika)

今日の我々の生活は、かつてないほどモノに溢れかえり豊かなものになっています。

同時に、私たちの生活はネットに依存したものとなっています。

何かを買うのも売るのも、タップひとつで誰でも簡単に行えます。

簡単にモノが手に入り、モノに溢れ、消費し続ける。

そこにかつてのような人とのつながりや値段を超えた価値は存在しない。

「生の自己完結化」とでもいうべき現代の消費社会に疲弊していった

私たちの憂な心を、

そよ風のようにふわりと包み込んでくれる楽曲となっています。

 

新曲『風を食む』は、冒頭でも述べたようにTBS系「NEWS23」のエンディングテーマになっています。

余談にはなりますが、NEWS23のアナウンサー小川彩佳さんは、この曲に対して以下のような感想を述べています。

静かな憂いを帯びながら、聴き終えるとどこかホッと救われたような気持ちに包まれました。
一日の終わり、くたっとした心の琴線をそっと撫でる音とことばに、じわり解きほぐされるひとときを視聴者の皆さんとともに過ごせたらと思っています。

小川彩佳さんのコメントより

 

真相は今は亡き「貴方」への想い…。

繰り返しになりますが、この楽曲のテーマは「消費社会」です。

n-bunaさん自身もテーマは「消費社会」だと言っています。

ですが、この曲には消費社会を表すと同時に、

もう一つのある物語が隠されていると私は考えています。

それは、「死別した妻への想い」です。

もちろん、n-bunaさん自身が言っているわけでも、誰かが言っていたわけでもありません。完全なる私自身の考察です。

ですが、そう考えるとかなり深い歌詞に見えてくるのです。

まず、歌詞全体を見てみましょう。

『風を食む』歌詞

明日はきっと天気で 悪いことなんてないね

タイムカードを押して僕は朝、目を開いた

僕らは今日も買ってる 足りないものしかなくて

靴を履きながら空想 空は高いのかな

貴方さえ 貴方さえ

これはきっとわからないんだ

はにかむ顔が散らつく

口を開けて風を食む

春が先 花ぐわし

桜の散りぬるを眺む

今、風を食む

棚の心は十五円 一つだけ売れ残った

値引きのシールを貼って閉店時間を待った

明日もきっと天気で 此処にも客が並んで

二割引の心は誰かが買うんだろうか

貴方だけ 貴方だけ

僕はずっと想ってたんだ

ただ白いあの雲を待つ

風のない春に騒めく

草流れ 天飛ぶや

軽く花の散るを眺む

今、風を食む

遂に心は半額 いつまでも売れ残って

テレビを眺めて空想 ニュースは希望のバーゲン

貴方は今日も買ってる 足りないものしか無くて

俯く手元で購入 空は高いのかな

貴方だけ 貴方だけ

この希望をわからないんだ

売れ残りの心でいい

僕にとっては美しい

春が咲き 花ぐわし

桜の散りぬるを眺む

貴方しか 貴方しか

貴方の傷はわからないんだ

口を開けて歌い出す

今、貴方は風を食む

冬籠り 春が先

貴方の歌だけが聞こえる

今、口遊む貴方だけ

貴方だけ

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buma より
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 71U8HjueQ+L._SS500_.jpg
ヨルシカ『風を食む』ジャケットイラスト、https://www.universal-music.co.jp/yorushika/products/up1as-01371/より転載、2020/10/16

『花人局』と『風を食む』の共通点

この曲には、繰り返し「貴方」という言葉が出てきます。

ここで、ヨルシカのこれまでの曲を思い出してみると、一つの違和感を感じると思います。

それは、2人称が「貴方」であること。

ヨルシカの出す曲は2人称はほとんどが「君」でした。

しかし、この曲は「貴方」です。

そして、ヨルシカのすべての曲の中で、2人称が「貴方」である曲はたった2つだけです。

それが、この「風を食む」と、「花人局」

この2曲のみです。

つまり、この2曲は同じ人からの視点で描かれていると考えられます。

「貴方」の正体

ネタバレ注意になるのですが、

楽曲「花人局」は小説『盗作』内で描写された妻との死別と、

その悲哀を主人公の盗作男が詠った歌だと多くで考察されています。

そしてこの「風を食む」は、かつてに死別した妻のことが時を経た今でも忘れられない

盗作男の心を詠っているのです。

心は常に乾いたままで、どれだけモノを消費しても決して満たされることはない。

煩雑とした日常の中で、ふとした瞬間に貴方を思い出す。

僕にとって、貴方は本当に美しかった。

そんな、僕にとって美しかった貴方を思い出して、私は思わず口遊んでしまう。

あぁ。貴方さえ。

そんな曲なのです。

僕にとって、”貴方”はいつだって美しい存在なのです。

ひとつひとつ歌詞から意味を徹底考察

ここからは、歌詞を一つ一つ見ていくことで、より深く考察していくことにします。

1番メロディ ーこの消費社会を表現

明日はきっと天気で 悪いことなんてないね
タイムカードを押して僕は朝、目を開いた
僕らは今日も買ってる 足りないものしかなくて
靴を履きながら空想 空は高いのかな

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

穏やかなアコースティックギターの音色からイントロが始まります。

このアコースティックギターの音をよく聞いてみると、雨が降っている音がしています。

『明日はきっと天気で、悪いことなんてないね』

この冒頭の歌い出しは、明日はきっと天気も良くて悪いことなんて何もない

いい日になるだろうという希望に満ちた歌詞かなと思っていましたが、

イントロ部分の雨の音を考えるとそうではないかもしれません。

またいつもと同じように仕事が始まる。

朝から雨だし、今日はいいことなんてないんだろうな。

今日と違って明日“は”きっといい天気で、悪いことなんてないよね。

こうした皮肉を込めた歌詞なのです。

<2020年12月5日追記>
風を食むのOFFICIAL VIDEOが発表されたことにより、冒頭の音は雨の音ではなく砂の音であることが判明しました。MV3:59のシーンでは「まるで雨に打たれているかのように砂に打たれている」ことから、砂は雨を表現しながらも、その”無機質さ”や”渇き”を重ねて表現しているのかもしれません。

『僕らは今日も買ってる 足りないものしかなくて』

この歌詞は、曲のテーマでもある消費社会を端的に表しています

僕らはまた無意識のうちにお金を使って、何かを消費している。

あれも足りない、これも足りない。

本当に足りないものはお金で買えるものではないのに、

絶えず何かを消費し続ける。そんな毎日に、疲れてきています。

『靴を履きながら空想 空は高いのかな』

あらゆるものに値段がつけられる時代です。

この「高いのかな」には、空までの距離としての高さと値段としての高さを掛け合わせているのだと思います。

空って、値段をつけたとしたらいくらくらいなのかな。高いのかな。

そんな考えても答えなんて出ないどうでもいいことを考えながら、仕事に向かうべく靴を履きます。

1番サビ   ー「これ」と不変の美しさ

貴方さえ 貴方さえ
これはきっとわからないんだ
はにかむ顔が散らつく
口を開けて風を食む

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

1番サビです。

ここでのポイントは2つあります。

「これ」とは何か。そして「貴方」とは一体誰のことなのか。

まず、「これ」の正体ですが、3番まで聞き進めると「これ」の正体が分かります。

ですので一旦飛ばして次に進みます。

次に、貴方の正体ですが、これは先ほど上で述べたように、死別した妻のことを指しています。

最愛だった妻のはにかむ顔を思い出して、懐かしく、

思わず自分も少し笑顔になってしまう。

そんな詩をここでは詩っているのです。

春が先 花ぐわし
桜の散りぬるを眺む
今、風を食む

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

ここで流れは変わり、美しい春の自然の描写が入ります。

「花ぐわし」は美しい花の意で、「桜」や「葦」にかかる枕詞です。

枕詞とは和歌によく見られる修語で、特定の語を導くために使われる日本古来の言葉遊びです。

この曲の表のテーマは消費社会です。消費社会を描いたこの楽曲の中に、

このように美しい自然の描写を入れることで、

「この消費ばかりの世界の中でさえ、決して失われることのない不変の美しさ」

を表しているのでしょう。

そして、「盗作男」の視点と捉えた場合、この春の描写は時の流れを示しています。

これからラストサビには冬の描写も現れます。

妻がいなくなってから気が付けばどんどん季節は巡っているということを表現しているのです。

2番メロディ ー消費社会で擦り減る心

棚の心は十五円 一つだけ売れ残った
値引きのシールを貼って閉店時間を待った
明日もきっと天気で 此処にも客が並んで
二割引の心は誰かが買うんだろうか

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

2番に入って、描写はガラッと変わります。

ここでは商品価値についての話になっています。

15円の商品って言われてもなかなか思い浮かびませんよね。

これは15円の特定の商品を表しているのではなく、

ほとんど価値のないものという意味を込めて15円と言っているのでしょう。

この消費社会ではあらゆるものに値段がつけられます。

15円

値引きのシール

2割引きの心

これらが表しているのは、消費社会ですり減る私たちの心、

そして本来の価値さえも失った私たちの心を表しています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-13.png

2番サビ   ー『天飛ぶや』に込められた意味

貴方だけ 貴方だけ
僕はずっと想ってたんだ
ただ白いあの雲を待つ
風のない春に騒めく

ヨルシカ『風を食
む』、作詞・作曲:n-buna より

2番のサビでは、さらに「貴方」を強く思う歌詞が登場します。

ここでは、「貴方」の存在が「美しい自然」と並列に扱われています。

一番のサビに出てきたように、

「この消費社会の中でも価値を失わない不変の美しさを持つ自然」と、

「貴方」が同格に表現されています。

つまり、貴方は僕にとってそれほど高貴で尊く、本能的に美しいと思える存在であるということをここで表現しているのです。

真っ白なあの雲が流れるのを待ちながら、貴方にまた会えるのを待っている。

会えるわけもないのに。

そうして待っているうちに、季節は廻ります。

草流れ 天飛ぶや
軽く花の散るを眺む
今、風を食む

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

ここで、私はこの「風を食む」が、盗作男の視点で亡くなった妻を想って詠った詩だということを確信しました。

一見すると、ここは1番と同様に、ただ美しい自然と季節の巡りを描いています。

ここで、「天飛ぶや」という枕詞がでてきます。

「天飛ぶや」は、空を飛ぶという意から、「鳥」「雁(かり)」にかかる枕詞です。

「雁(かり)」と似た昔の地名「軽(かる)」に音が近いことから、「軽」を導くときにも用いられます。

ここでは、「軽く花の散るを眺む」の「軽く」にかかっています。

この「天飛ぶや」は、万葉集で柿本人麻呂が詠った詩にできます。

柿本人麻呂

天飛(あまと)ぶや 軽(かる)の路(みち)は 吾妹子(わぎもこ)が 里にしあれば ねもころに…

と続く、少し長いいわゆる「長歌」となっています。

この歌は、妻が亡くなった際に、人麻呂が妻を想い哀しんで詠んだ挽歌なのです。

この柿本人麻呂の歌で使われた枕詞を用いることで、

同様に妻を亡くした男の描写をこうして描いているのです。

「消費社会を表している」という説明だけでは附に落ちなかった、

「貴方」を想う歌詞が何度も何度も出てきたことにも納得がいきます。

n-bunaさんの文学的教養の深さには驚くばかりです…。

また、一番と同様に、季節の巡りは春の終わりを表しています。

花が散っている様を眺めているので、ここでいう花とはおそらく桜でしょう。

桜が散るのを眺めている盗作男の描写を描いているのでしょう。

3番メロディ ー遂に心は半額

遂に心は半額 いつまでも売れ残って
テレビを眺めて空想 ニュースは希望のバーゲン
貴方は今日も買ってる 足りないものしか無くて
俯く手元で購入 空は高いのかな

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

3番では、2番よりも心の価値がさらに低くなっています。

いつまでも売れ残ってというのは、いつまで経っても癒えない僕の心を表しています。

テレビを眺めて空想~ささやく手元で購入の歌詞は、

n-bunaさんが実際にコメントしていた、

「タップひとつで物が買える現代社会で、消費することに疲れてしまった心」

をまさしく描いています。

テレビを眺めると、希望が安売りされている。

いくら買ったってその心は満たされるわけでもないのに、ひたすら買い続けている。

心に空いた穴を満たそうと俯いてスマホを見て、タップ一つでモノを買う。

ただ茫然とテレビを眺め、足りないものを満たそうとモノを買い、消費し続ける。そんな自分に、価値なんてあるのだろうか。

そんな心情を描いています。

また、『貴方は今日も買ってる』という表現。

ここでの貴方は、客観的に見たあなた(=つまり自分)と解釈することもできますし、

生前の妻を表していると解釈することもできます

仮に生前の妻と解釈した場合、妻も心に足りないものを満たそうとして消費を続けていたととらえられます。

どちらもとれますが、ここでは両方の意味を兼ねていると捉えるのがベストなのだと思います。

3番サビ   ー「僕にとっては美しい」

貴方だけ 貴方だけ
この希望をわからないんだ
売れ残りの心でいい
僕にとっては美しい

春が咲き 花ぐわし

桜の散りぬるを眺む

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

ここで伏線が回収されます。

1番のサビで「貴方さえ 貴方さえ これはきっとわからないんだ」という歌詞の意味を保留にしました。

貴方でさえ分かっていなかったもの、それは「希望」

それは僕にとっての希望であり、売れ残りの心であったとしても

「僕」にとっては美しいものなのです。

つまり、貴方の存在が、私にとっての希望であり、私にとって最も美しいものだったのです。

ここでいう「貴方」は、「僕」にとっての妻であり、そしてこの現代社会に生きる全ての「あなた」でもあります。

妻も、かつてはこの消費社会に疲弊し、心をすり減らしていたのでしょう。

そしてあなたも、この消費社会に疲弊し、心をすり減らしています。

だけど、それでいい。そのままでいいんだ。「売れ残りの心」だっていい。

妻が僕にとって美しい希望だったように、あなたも誰かにとって美しい希望なんだ。

こういうことをこのサビでは歌っています。

n-bunaさんはコメントで、

「消費することに疲れてしまった心を、最後に優しく包みこむような楽曲を書きたい」と述べていました。

「僕にとっては美しい」。この一言で、すべての「あなた」を優しく包み込んでいるのです。

Summerfield, Woman, Girl, Sunset, Twilight, Summer

貴方しか 貴方しか
貴方の傷はわからないんだ
口を開けて歌い出す
今、貴方は風を食む

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

きっと貴方には、貴方にしか分からない傷があるのだろう。

それでも、貴方の存在は、貴方がなんとなく口遊むその歌には、誰かを救う希望があるんだ。

だからこそ、貴方には歌っていて欲しい。

そういうことをここでは表現しています。

そして、主人公の盗作男は、再び貴方が「風を食」んでいる姿を思い出します。

冬籠り 春が先
貴方の歌だけが聞こえる
今、口遊む貴方だけ

貴方だけ

ヨルシカ『風を食む』、作詞・作曲:n-buna より

また季節は巡っていきます。

「冬籠り」は、冬ごもりした草木が春になり芽を吹く意から、「春」にかかる枕詞。

冬が終わり、また春が訪れ桜が咲きます。

妻はもういないけれど、確かに、桜の中で貴方の口遊む音が聞こえてくる。

そう。貴方の声が。

 

まとめ この世のすべての「あなた」へ捧ぐ

ヨルシカの新曲『風を食む』を私個人的な考察を交えながら解説してきました。

表のテーマはn-bunaさん自身も述べているように「消費社会」です。

ですが、「消費社会」をテーマにしただけとは到底思えない歌詞がそこには綴られています。

ヨルシカの数ある楽曲の中で、2人称を表す表現が「貴方」なのはこの「風を食む」と「花人局」のみであること。

歌詞の中に何度も出てくる「貴方」への想い。

「天飛ぶや」の枕詞をあえて使う表現。

そしてこれらを踏まえて歌詞を一つ一つ紐解いていくと、

この「風を食む」という曲がただ消費社会だけをテーマにしているのではないことが分かります。

 

それは、「妻の死」

今は亡き最愛の妻を想って描いた、なんとも儚く切ない詩なのです。

そしてこの曲の魅力は、ここだけに留まりません。

最初は「貴方=妻」だったのですが、

実は貴方は妻だけを表しているのではなく、全ての「あなた」を表しています。

 

この生きにくい消費ばかりの現代で生きる「あなた」の存在も、

「貴方(妻)」と同じように誰かにとっての希望であり、

美しいものなんだと詠うことで、

この世のすべての「あなた」を優しく包み込む楽曲にしているのです。

なんとも美しい曲なのでしょうか。

この美しい曲が、ただの綺麗な曲、ただ最近人気のヨルシカの曲というだけで認知されるのではなく、こんなにも素敵で奥が深い詩なんだということを、皆さんに是非知っていただきたいものです。

この記事での考察は、あくまで個人的な考察によるもので、公式による発表ではありません。
みなさんも是非それぞれの解釈でイメージして、ヨルシカの曲を楽しんでください。

大好きなヨルシカの曲を全曲紹介している記事もあります。
よければどうぞ!
【完全網羅】ヨルシカ全45曲紹介!あなたは何曲知っている?全曲ミニ解説付き

コメント

  1. […] 新の考察記事を公開しました。 ヨルシカ『風を食む』徹底考察ーテーマは消費社会と「貴方」への想い […]

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